大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉家庭裁判所松戸支部 事件番号不詳 決定

少年 T(昭一八・一二・一生)

主文

本件保護処分取消の申立を棄却する。

理由

本件申立の要旨は少年に対し審判権がなかつたことを証する明らかな資料を新たに発見したので、少年法第二十七条の二第一項に則り本件保護処分の取消と共に審判不開始の決定を求めるというのであつてその資料として

(一)  少年は本件の非行事実につき、司法警察員に対し形式的に自白したのみでその外は極力否認していたのであるが、多摩少年院に収容されてから以後においても担当補導教官に対し無実を訴えている由で、教官は少年の態度その説明内容等からみてその訴えるところに偽わりがあるようには見受けられず、少年の無実の訴が正当ではないかとの確信を得つつあるとの意見を附添人に申し述べられたので、右意見を充分に尊重すべきである。

(二)  原決定は本件非行を少年外三名の共犯者によつて相次いで犯された強姦既遂であると認定しているが、果してそうであれば被害者の処女膜は完全に基底部まで破れていなければならない筋合である。然るに被害者を現実に診察した医師白幡光作成の診断結果の説明書(本件申立書添付)によれば、被害者Y子の処女膜の破損は小さく基底部に達していないという情況からみて、完全な性交があつたものとは認められず、殊に数名の男性が連続して強姦した結果発生した処女膜の破損とは到底考えられないとの記載があり、これによつてみると強姦既遂の事実を認めることは全く不可能である。

(三)  原決定が本件強姦既遂の事実認定をするに当り、共犯者とされているKの証言によつて大いに影響を受けていることは明らかであるが、Kは別件の「学校の時計窃盗」容疑事件において、単独犯であるに拘らず唯賍物の処分にだけ関係のあるSを窃盗共犯者に仕立てて警察官に嘘の供述をしている。これは同人の性格が容易に他の誘導に乗ぜられる傾向が強く、その反面嘘つきであるためで、本件強姦事件においても取調に当つた警察官Fに誘導されるままに、実在しない強姦の事実を認めそれに尾鰭をつけて少年を共犯者の一人に仕立てあげたものであるから、K証言の証拠能力乃至は証明力を争う新たな資料として、前記Sの証言(本件申立書添付の手記)を提出する。

(四)  本件を摘発し取調をした警察官は松戸警察署防犯係長警部補Fで、少年は同人の脅迫並びに誘導により昭和三十四年十月十九日付供述調書において唯一度犯行を自白しており、被害者Y子も同人の誘導に操られ被害を認める供述をして居る。更に原審において右Fは証人として取調を受け、本件強姦の事実は間違いはないと確信する旨証言しているが、原決定はFを警察官たるに値する品性を備えたものと見て同証言を尊重し、且つ同人作成の供述調書の任意性を疑わなかつたものに相違ない。然るに右Fは昭和三十五年四月二十三日付産経新聞夕刊紙に掲載された記事(本件申立書添付)によつて明らかのように、品性劣悪人格的に信頼し得ない人物で、かような警察官が取調に際し自己の見込とおりの供述が得られなかつた場合に、職責違反を敢てしてまでも自己の欲するような供述の強要をしなかつたであろうとは誰が保証できるか。かかる警察官の取調の結果を無条件に信用しているところに原決定の事実誤認の一因がある。

(五)  原審記録によれば原決定は少年の保護者等が松戸市々会議員等に働きかけて事件の揉み潰しを図つたのではないかと疑つているように窺知される。併し本件に関連した市会議員ありとすれば被害者Y子の叔父A氏を措いて他にはなく、附添人がA氏に会つて確かめ得たところによると、同氏は被害者の父の依頼に基き被害者が取調を受けた事案の内容を聞く目的で、前記F警部補並びに主任検察官に面接しただけで事件を揉み潰そうとしたことは毛頭ない由である。かような疑のかけられた事実の存否を明確にすることは、原審の事実認定の是非を論ずるに当り重要であると思料し、A氏を新たな資料として提出する。

その他原決定は犯罪の日時場所を確定せず、現場の実況見分乃至検証をせず被害者の診断の結果を確める鑑定等もしていないので、結局審理不尽に帰着するから、速かにこれを補い申立趣旨のとおりの決定をせられたいというのである。

よつて按ずるに右資料の中(一)及び(三)乃至(五)は事実というよりは寧ろ事情や意見に類するもので、その証明も充分でないばかりでなく仮に右資料のような事実があつたとしてもその証明力は薄弱である。元来証拠の証明力は裁判官の自由な判断に委ねられているものであるところ、本件記録における諸般の証拠に照し考察すれば、右の資料は本件事実の認定には直接影響がないものと解せられる。従つてこれ等を採つて直ちに少年に対し審判権が無かつたものとして既に確定した原決定を取消すことはできない。次に(二)の資料については原決定が被害者Y子に対しD、少年N、Kが順次姦淫した旨認定しているのに対し、専門的知識を有する医師が被害者を診断した結果「処女膜の破損が小さく基底部に達していないという情況からみて、右診察時以前には完全なる性交があつたものとは認められない。殊に数名の男性が時を接し連続して患者を強姦した結果発生した処女膜の破損とは到底考えられない」と説明しているので、この点に関し証拠の再検討を要するのであるが、右説明書は完全な性交があつたものとは認められないというのであるから、結局強姦の既遂を否定するものであり未遂と認定するには何等妨げなく、従つてこの点に関し原審の事実認定に誤があるとしてもこれを以て直ちに少年に対し審判権がなかつたものということはできないと解する。

そこで少年に対する原審強姦保護事件の記録を更に仔細に検討し、なお当審において取調べた証人K、Y子同○ロ○夫、同○崎○夫、同○山○雄の各証言や現場検証の結果、並びに前記白幡医師作成の診断結果の説明書、別件Dに対する昭和三五年少(ハ)第三号保護処分取消申立事件におけるDの供述及び証人○入○男の証言等を総合して判断すれば、原決定の認定して居るような強姦既遂の事実はその証明が不充分であるけれども、強姦未遂の事実即ち少年はK、N、Dと共謀の上、松戸市○○○×××番地Y子(昭和十九年一月二日生)を強姦しようと企て昭和三十四年九月二十日頃の夜先づ右Kが甘言を以て右Y子を自宅より同市○○所在の○○橋附近に誘い出し同所の草むらに並んで雑談中、少年等は矢庭に同女の両手をつかんでその場に押し倒し上から押えつける等の暴行を加えた上、順次同女に乗りかかり強いて姦淫しようとしたけれども、少年等はいずれも年少で性交の経験なく、且つ被害者Y子がいやがつて抵抗したため、それぞれ自己の陰茎を同女の陰部附近に押しつけた程度に止まり、姦淫の目的を遂げなかつたものであることが充分に認められる。当審における証人○橋○の証言中には少年等のアリバイを証明するが如き供述があるけれども、同人は昭和三十四年十一月六日本件に関し千葉地方検察庁松戸支部検察官の取調を受けて居り、その際の供述と右証言とには相当の相違点があるばかりでなく、他の証拠と対照して検討すれば、同人の証言を全面的に信用して本件非行を否定することはできない。その他少年や共犯者及び保護者等の供述中には前記認定に抵触するものも少くないが、右は故意に事実を隠蔽して居るか、若しくは日時の経過による記憶違いによるものと解せられるから前記認定を覆すに足りない。

少年の右所為は刑法第百七十七条前段第百七十九条第六十条に該当する。

而して少年の処遇について考えてみるに、少年は昭和三十四年七月十五日当裁判所において恐喝未遂保護事件で審判を受け不処分になつたものであるが、その後も反省の態度なく不良交友を続け夜遊び等に耽り本件非行を敢行したものであつて、その罪質、態様に少年の性格経歴家庭環境等諸般の事情を総合して検討すれば、少年の要保護性は高度でありその健全なる育成を期するには相当期間中等少年院に収容して、従来の不良交友を絶ち規律ある生活の下で適正なる矯正教育を施す必要があると認められ、事案が強姦既遂であると未遂であるとによつてその間に大差なきものと解せられる。

以上の次第で原決定には非行の日時態様等に一部誤認があるけれども、右誤認の程度は軽少で要保護性の認定や保護処分の決定に何等影響を及ぼさないものであり、結局本件は確定審判に対し少年法第二十七条の二第一項所定の少年に対し審判権がなかつたことを認めるに足る明らかな資料を新たに発見したときに該当しないから、附添人の本件保護処分取消の申立は棄却を免れない。

よつて非行事実並びに法律の適条を前記のように変更することとするも、少年を中等少年院に送致することとした原決定はまことに相当であると認め主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤欽次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!